あの日見た夕焼けは、本物よりも少しオレンジが濃かった。
それはテーマパークの照明演出だったのか、それとも――
彼女の笑顔が、僕の記憶の中で、ずっと色褪せなかったせいなのか。
*
「……あれ? お兄さん」
その声が、僕の胸に音を立てて飛び込んできたのは、たまたま入った駅ビルのカフェだった。
僕はコーヒーを手にしたまま、反射的に振り返った。
そこには、制服姿の女の子が、きょとんとした瞳でこちらを見ていた。
南国の花がよく似合う優しい色の髪と、陽射しに溶けるような柔らかな表情。
その表情に喜びの感情が浮かび上がった。
「やっぱり……テーマパークで、案内したことありますよね?」
記憶のフィルムが、くるりと巻き戻る。
『Jangli-La』(ジャングリラ)――あの南国を模した体験型アミューズメントで、僕は彼女に出会った。
「……南国の乙女さん、だったよね」
「ふふっ、覚えててくれたんだ。嬉しいな」
彼女の右手首には、あのときと同じブレスレットが巻かれていた。
空と夕暮れ色の珠に海の揺らめきが踊っている。キャスト全員が着けるパークの支給品ではない、彼女だけのものだった。
僕が迷子になった子どもを助けて集落に送ったとき、声をかけてきたのが彼女だった。
軽やかな足取りと、少しお姉さんぶった口調――
彼女はあまりに眩しかった。テーマパークで設定されたストーリーが終わった別れのシーンでは、こっそりと、まるで僕だけへの秘密のメッセージのように「また来てくださいね、優しいお兄さん」と耳元でささやかれ、完全に心を持っていかれた。
でも、それはあくまで“演出”の一部だったはずだ。
僕は一度だけ、あのパークに足を運んだきり。
彼女は、夢の時間の中で生きていたキャストのひとり。
「偶然ですね、こんなところで会えるなんて」
彼女はそう言って、僕のテーブルに水を置いた。
笑顔の下で、ほんの少しだけ照れたように頬が赤く染まっている気がした。
「……また、会いたいって、思ってた」
気づけば、そんな言葉がこぼれていた。
彼女は目を丸くして、それから――微笑んだ。
あのときと同じ、でも、どこか素のままの笑顔で。
「私も。……パークの中じゃあまり声をかけられなかったけど」
彼女の、男を魅了する声がそっと耳に滑り込む。
「お兄さんのこと、忘れられなかったんだ」
それは、夢の続きだったのかもしれない。
だけど今は、夢じゃなくて現実。
「あ、ごめんなさい。私の名前は――」
僕たちの新しい物語が、これからはじまるのだろうか。
*
(後日談)
「本当の南国の島でテーマパークみたいなかっこして欲しいなんて、お兄さんはエッチだなぁ」